最期は聴覚

やぎです。こちらは去年の写真。移動手段が車椅子の利用者様が歩行訓練に励む瞬間です。抗がん剤よりも、笑いが一番の薬ですね、と言っている写真です。
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人間は誕生してから最期を迎えるまで、長い長い年月を過ごします。
最期を迎える時、会話ができなくなっても、目がみえなくなっても、たとえ意識がなくても、脳は最期まで音に反応することを知っていますか?
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実際に体験した八木の話をひとつだけ、ここに記しておきたいです。少しだけ長くなります。臨床経験2−3年目に体験した患者様との出来事、数年経った今でも鮮明に覚えているほど印象的でした。
それは「突然喋りだしてコミュニケーションが成立した体験」です。
当時わたしが働いていた病院は、急性期病棟・回復期病棟・療養病棟と複数の機能をもった病棟のある「ケアミックス病院」でした。療養病棟では急性期医療は終了して症状は安定したものの、継続的な入院加療が必要な患者様をお受け入れしていて、人工呼吸器管理の方も多くいらっしゃいました。
突然喋りだした患者様は、十数年前の脳の障害で昏睡状態に陥り酸素療法が必要な方でした。状態が安定してからも発話はなく、痛み刺激で顔をしかめる反応があったり、なかったり…の80歳近い女性。関節拘縮、関節可動域制限が全身的に著しい方でした。
理学療法士(PT)になって1年目の私。長く診ていた先輩から引き継いで、「1年目の自分に何ができるだろう?」と日々悩み、参考書や自習レポートを開き、先輩に助言をもらいながら過ごす中で最も大切なことに気が付きます。
「目の前の女性(患者様)に、PTとして、医療従事者として、人として何ができるだろう」
それから、より会話量を多くして、ご家族が持ってきたラジオを聴いていただいたり、歌をうたってみたり、昔話の読み聞かせを担当看護師さんと行ったり。主治医に許可をもらってベッドのまま部屋から出た後は太陽の光が当たりやすい部屋へ散歩に行ったり…ありとあらゆるアプローチを試してみました。
単位数の規定があり毎日介入できないため、病棟と連携をとって看護師さんにも忙しい中できるだけ会話するようにお願いしていたのでした。
上記のアプローチを1年ほど続けたPT2年目のある日。驚くべきことが起こります。
いつものようにお部屋へ行ってバイタルを測り、開眼したタイミングを見計らって、患者様の名前と自分の名前を確認するとき、自分の苗字を伝えたあとに
「も も え」
!!!!!!!!!!
なんと、口を動かして私の名前を喋ったのです。それだけではなく、患者様の自分の名前、主治医の名前まで…!耳元で話しかけていたことを覚えていらっしゃいました。わたしの声、看護師さん達の声、ずっと聞こえていたんですね。
昔話の導入部分「昔むかし…?」と尋ねるように聞くと
「あ る と こ ろ に」
!!!!!!!!!!!
と、物語を始めてみたり。
さらにさらに、顔の目の前へ私の指を持っていき「何本に見えますか?」の問いには
「い っ ぽ ん」
ピースサインに指の形を変えると
「に ほ ん」
!!!!!!!!????????
眼球は白濁して見えていないと思いこんでいたため、驚きました。
手足、首はご自分で動かせませんが目は動くんです。情報を掴もうと動くんです、驚きました。
それからはリクライニングの車椅子乗車の許可もいただき、屋外に出て風や匂いを感じてもらうなど、病室以外でリハビリ時間を一緒に過ごさせていただきました。徐々に反応が薄くなり元に戻って、わたしが担当をはずれてから最期を迎えてしまいましたが(これもまた不思議なタイミング)、ご家族から感謝のお言葉をいただきました。息子様の名前を呼んでもらえた場面があったと。お見舞いに足が遠のいていたご家族に、あの覚醒したタイミングで声をかけてくれた看護師さんがいました。私が25歳になる前、温かい体験を患者様から、スタッフからプレゼントしてもらいました。この経験が、私の訪問看護を続ける理由の一部になっています。
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このエピソードを思い出したきっかけは、あざみ野・センター南店で担当している利用者様のお話を聞いたからです。担当している看護師から聞いた話。年齢60代のガン末期の診断を受けた女性の話です。昨日、エンゼルケア(ご逝去後のケア)で利用者様とご家族と一緒の時間を過ごした涙の話は、次に書きたいと思います。
弊社は若いスタッフが多く在籍しています。緊急コール(オンコール)に不安を感じている新入職のスタッフも多くいます。「不安をどうすれば解消できるか」を、一緒に考えて一緒に行動してくれるスタッフがいます。訪問経験0のスタッフが多い弊社。不安な気持ちは、みんな分かってくれます、経験しています。強がらず、不安なことは相談して、チームで頼り合いながら仕事に励みましょう!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました\(^o^)/